2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)と求職者等へのセクシュアルハラスメントの防止措置が、事業主の義務になりました。
従業員を1人でも雇っている会社は、規模に関係なく対象です。
「義務になったのは知っている。でも、社内で何をすればいいのか」
総務の方なら、一度はそう思ったのではないでしょうか。
私は総務課長として働いていて、第2種衛生管理者の資格を持っています。
今回の義務化を受けて、毎月の衛生委員会で「ハラスメント防止に関する事項」を議題にし、3〜4分で周知しました。
この記事では、そのときの進め方と、そのまま使える台本テンプレ・議事録の記載例をまとめます。
※この記事は、私の職場での実務の一例です。法律の解釈や個別の対応については、厚生労働省の指針原文や、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご確認ください。
先に結論|衛生委員会では「4つだけ」伝えればいい
衛生委員会で、法改正の中身を細かく説明する必要はないと考えています。
伝えたのは、次の4つだけです。
- 法改正があったこと
- 会社として対応すること
- 困ったら相談してほしいこと(自分のことでも、周りで見聞きしたことでも)
- 部門長は、メンバーへ周知してほしいこと
時間は、資料を投影しながら3〜4分。
そして、この議題を、まずは毎月の恒久項目として置きました。
詳しくは、このあと順に説明します。
2026年10月から、何が義務になったのか
まずは、今回の義務化の中身を簡単に整理します。
対象は「従業員1人以上のすべての事業主」
今回の義務化は、改正された労働施策総合推進法と男女雇用機会均等法にもとづくものです。(令和7年法律第63号。2025年6月11日公布、2026年10月1日施行。具体的な措置は、厚生労働省の指針〈令和8年厚生労働省告示第51号・第52号〉で示されています)
中小企業も例外ではありません。
カスタマーハラスメント(カスハラ)
顧客、取引先、施設の利用者など、会社の事業に関係のある人からの言動のうち、従業員の業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものによって、従業員の就業環境が害されることを指します。
対面だけでなく、電話・メール・SNSでの言動も含まれます。たとえば、
- 暴言・脅迫
- 執拗な要求、長時間の拘束
- 正当な範囲を超える要求
などが例として挙げられています。
求職者等へのセクシュアルハラスメント
採用面接、会社説明会、インターンシップなどの場で、自社の従業員が、就職活動中の学生や求職者に対して行うセクハラです。いわゆる「就活セクハラ」の防止も、事業主の義務になりました。
会社に求められる措置
指針では、主に次のような措置が示されています。
| 措置 | 中身の例 |
|---|---|
| 方針の明確化と周知・啓発 | 「ハラスメントを許容しない」方針を決め、社内に伝える |
| 相談体制の整備 | 相談窓口を決め、従業員に知らせる |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | 事実確認、被害者への配慮、再発防止 |
| 抑止のための措置 | カスハラへの対応方法を決めておく、など |
| 併せて講ずべき措置 | 相談者のプライバシー保護、相談したことや事実確認に協力したことを理由とする不利益な取扱いの禁止 |
あわせて、取引先などほかの会社から、カスハラへの対応について協力を求められたときは、応じるよう努めることとされています。
※措置の詳細は、厚生労働省の指針原文(令和8年厚生労働省告示第51号・第52号)をご確認ください。
なぜ「衛生委員会」で扱ったのか
ハラスメントの周知は、社内メールや掲示でもできます。それでも衛生委員会を選んだ理由は、3つあります。
理由1|メンタルヘルスの議題と地続きだから
衛生委員会では、労働者の精神的健康の保持増進に関することも調査審議の対象とされています。(労働安全衛生規則 第22条。詳細は条文をご確認ください)
ハラスメントは、従業員のメンタルヘルスに直結する問題です。衛生管理者の立場から見ても、衛生委員会で扱うのは自然な流れだと考えました。
理由2|部門長が揃っている場だから
衛生委員会には、各部門の責任者が出ていることが多いと思います。
全社にメールを送るより、部門長に直接お願いして、各部門で伝えてもらうほうが、現場まで届きやすい。
理由3|「周知した証跡」が議事録に残るから
衛生委員会は、議事の概要を記録し、保存することになっています。
つまり、「会社として、いつ、誰に、何を周知したか」が、自然と記録に残ります。あとで説明を求められたときにも、議事録を見せれば済みます。
※衛生委員会の設置が義務になるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。50人未満の事業場では、朝礼や部門長会議など、記録が残る場で同じ形を使えます。
準備したこと|AIと壁打ちして、4点に絞った
説明の中身は、AI(Copilot)と壁打ちしながら準備しました。
法改正の解説を全部伝えようとすると、10分あっても足りません。
AIに論点を出してもらい、そこから「衛生委員会のメンバーに、いま伝える必要があるか」で削っていった結果、冒頭の4点が残りました。
AIの案は、そのまま使わずに、自分で取捨選択するのが前提です。
議題名は、「ハラスメント防止に関する事項」としました。
そのまま使える|3〜4分の周知台本テンプレ
実際に使った台本を、どの会社でも使える形に書き直しました。「〇〇」の部分を、自社に合わせて差し替えてください。
【議題:ハラスメント防止に関する事項】 (1)法改正があったこと 2026年10月1日から、法改正により、 カスタマーハラスメントと、求職者等へのセクシュアルハラスメントの 防止措置が、すべての事業主の義務になりました。 (2)カスタマーハラスメントとは お客様や取引先、施設の利用者などからの、社会通念上許容される範囲を超えた言動で、 私たちの就業環境が害されるものを言います。 対面だけでなく、電話やメール、SNSでの言動も含まれます。 たとえば、暴言や脅迫、執拗な要求、正当な範囲を超える要求などです。 (3)会社として対応すること 会社には、方針を明確にすること、相談できる窓口を設けること、 事実を確認し再発を防ぐことが求められています。 当社は、ハラスメントを許容しません。 相談があった場合は、会社として適切に対応します。 (4)求職者等へのセクシュアルハラスメント 採用面接や会社説明会、インターンシップなどで、 社員が就職活動中の方に対して行うセクハラの防止も、義務になりました。 採用に関わる方は、とくにご留意ください。 (5)困ったら相談してください 相談窓口は〇〇です。 ご自身が被害を受けた場合だけでなく、 周りで見聞きした場合も、相談してください。 相談したことや、事実確認に協力したことを理由に、不利益な取扱いを受けることはありません。 (6)部門長の皆さんへ 本日の内容を、各部門のメンバーへ周知をお願いします。
ポイント:
- (3)の「当社は、ハラスメントを許容しません」は、言い切るのがおすすめです。方針の明確化そのものになります
- (5)の「周りで見聞きした場合も」は、必ず入れています。被害を受けた本人は、言い出しにくいことが多いからです
- 読み上げると、ちょうど3分前後です。資料は、この6項目を1枚ずつ投影するだけで十分でした
そのまま使える|議事録の記載例
議事録には、次のように残しています。
【ハラスメント防止に関する事項】 ・法改正(2026年10月1日施行)に伴い、カスタマーハラスメントおよび 求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置について周知を行った。 ・会社としてハラスメントを許容せず、相談があった場合は適切に対応する 方針を確認した。 ・相談窓口(〇〇)を案内した。被害を受けた場合だけでなく、 見聞きした場合も相談できることを確認した。 ・各部門長に対し、所属メンバーへの周知と、継続的な啓発を依頼した。
「周知を行った」「方針を確認した」「依頼した」と、何をしたのかを動詞で書いておくと、あとで読み返したときに分かりやすくなります。
恒久項目にして、毎月「案件の有無」を確認する
もうひとつ、今回決めたのが、この議題を毎月の恒久項目にしたことです。
毎月の衛生委員会で、
- ハラスメントに関する相談・案件の有無
- (あれば)対応状況の概要
を確認します。案件がなければ、「該当なし」と議事録に残すだけです。
こうしておくと、
- 「継続的に取り組んでいる」ことが、毎月の議事録で示せる
- 監査や、社外から説明を求められたときに、説明しやすい
- 毎月耳にすることで、「相談していいんだ」という空気が少しずつできる
という効果があります。
毎月、議論をする必要はありません。
「案件の有無」を確認して、議事録に一行残すだけでも、記録は積み上がっていきます。
(続け方については、このあと「実際にやってみて」で書いています)
※個別の相談内容を、衛生委員会の場で詳しく共有しないよう注意してください。
相談者のプライバシー保護も、事業主の措置のひとつです。
実際にやってみて
結果としては、かなり効率よく周知できたと感じています。
衛生委員会という、もともとある枠組みに乗せたので、総務の負担はほとんど増えていません。それでいて、法改正のポイント、会社としての対応、相談窓口まで、ひととおり伝えることができました。
もうひとつよかったのは、各部門の責任者に持ち帰ってもらう形にしたことです。
総務から全社に一斉に案内するだけだと、どうしても「総務からのお知らせ」として読み流されがちです。部門長から自分の部署に伝えてもらうことで、「自分たちの職場の問題」として受け止めてもらうきっかけになったと思っています。
一方で、毎月この議題で重い議論をする必要はない、とも感じました。
毎月の議題として残すのか。数か月に一度の啓発事項にするのか。負担を増やさずに続けられる形を、これから検討していくつもりです。
中小企業の総務が、まず整えること
衛生委員会での周知とあわせて、総務として最低限確認しておきたいことをチェックリストにしました。
- ☐ 「ハラスメントを許容しない」方針を、文書(就業規則・規程・社内掲示など)で示しているか
- ☐ 方針の対象に、カスハラと求職者等へのセクハラが含まれているか
- ☐ 相談窓口が決まっていて、従業員が知っているか
- ☐ 相談窓口の担当者が、相談を受けたときの流れ(記録・事実確認・報告先)を知っているか
- ☐ カスハラが起きたとき、現場の従業員が「一人で対応しなくていい」ルールになっているか
- ☐ 採用面接・説明会・インターンシップに関わる人に、今回の義務化を伝えたか
- ☐ 相談したことを理由に、不利益な取扱いをしないことを明示しているか
- ☐ 周知した記録(議事録・メール・掲示の日付)が残っているか
すべてを一度に整えるのは大変です。まずは方針・窓口・周知の記録の3つから、と考えています。
※具体的な規程の文言や対応フローは、会社ごとに違います。自社の就業規則や、専門家への確認をおすすめします。
まとめ|伝えることを絞り、記録が残る場で話す
今回の義務化で、総務がやることは多く見えます。でも、社内への周知に関しては、
- 法改正があったこと
- 会社として対応すること
- 困ったら相談してほしいこと
- 部門長はメンバーへ周知してほしいこと
の4つに絞り、記録が残る場で、無理のない形で続ける。
それだけで、最初の一歩としては十分だと考えています。
台本と議事録の例は、自社に合わせて書き換えて使ってください。
就活セクハラについては、以前にも記事を書いています。
(今回の義務化の前に書いたものです)
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